こんにちは、コンチェルトはりきゅう院 院長の松浦聡です。
久しぶりにブログを投稿させていただきます。
本日は、手のフォーカルジストニアでも発症頻度の高い、薬指のジストニアに関して考察を書かせていただきます。
①解剖学的な薬指の特徴と可動域について
薬指は他の指と比べて支配神経が複雑かつ、薬指単独に停止する筋肉がないためか、左右の手で伸展可動域に差がある方を多く診てきました。
音楽家でもストイックな方は、筋肉の教科書などで勉強して筋肉名に詳しい方もたまにいらっしゃいますが、教科書に載っている筋肉がすべての人に同様にあるわけではありません。
小生は学生時代に検体の解剖なども体験させていただきましたが、小さい筋肉は欠損していることも普通にありますし、教科書にのってないような、関節をまたがずに同一の骨に起始停止するという、働きようがない骨格筋がある方もみたことがあります。
なので、薬指単独での屈伸動作に関わる筋肉をお持ちの方もいらっしゃるかとは思いますが、一般論としては薬指単独で屈伸動作に作用する骨格筋はありません。
さて、簡易的な伸展可動域の確認方法ですが、手のひらをベタッとテーブルに乗せて、薬指だけテーブルから離すように挙上します。
この時に左右の手で薬指を挙げられる範囲に差がある方が多いです。
写真は小生の手ですが、右手の方が左手よりも薬指を高く挙げられています。
これまでの臨床を通して、患者さんの中には薬指を伸展できず、テーブルから全く離せない方もたまにいらっしゃいます。
可動域に差が生じる理由は人それぞれですが、筋力は関係ありません。
筋力が問題だとしたら、神経麻痺などが考えられるので、筋トレではなく適切な治療を先に受けることをおすすめ致します。
②可動域の差がもたらす影響について
可動域制限は腱鞘炎でお悩みの方に施術する際にも確認してきたのですが、ジストニアも腱鞘炎も、左右で可動域が狭い方の手に悩みを抱えるケースが多いと実感してます。
ただし、薬指のジストニアや腱鞘炎を発症したために可動域が狭くなった可能性も完全には否定できません。
*左右での発症頻度は演奏する楽器にもよります(弦楽器の腱鞘炎では圧倒的に左手が多い)が、ジストニアも腱鞘炎も繰り返し行う過剰な筋収縮が発症の引き金になり得るので、可動域が狭いために伸展動作に過剰に力を使っている方は注意が必要です。
③理想的な演奏方法?
さて、話は少し脱線しますが、小生は趣味程度にピアノを弾きます。
子供の頃は手関節を低めに構えて、指節間関節(指の関節)のアーチを保つよう指導されました。
現在は手関節を鍵盤よりかなり高めに構えることで、指や腕の重みで打鍵して、鍵盤の反発も利用して離鍵するという、柔らかい音で倍音を響かせつつ、必要最小限の力で演奏する効率良い体の使い方を心がけております。
このように書くと手関節は高く保つ方が正しいと思われそうですが、薬指の伸展可動域が狭い方に、その効率のよさそうな演奏方法で演奏させるとどうなるか。
手関節を高くし過ぎると、薬指に停止する伸筋が過剰にストレッチされた状態になるので、伸展可動域は狭まります。
それでは反対に手関節を低くした方が良いかというと、手関節を低くし過ぎると、拮抗筋の屈筋(指を曲げる筋肉)がストレッチされるため、薬指は伸展しづらくなります。
なので、手関節の高さも演奏者自身にとって最適な状態で演奏するのが望ましいです。
簡単な曲や短時間の演奏なら問題なくても、長時間の演奏や速く細かいパッセージでは、前腕(肘から手首)の筋肉への負担が強くなる可能性があります。
*ロシアピアニズムなどの手関節を高く保つ奏法も、手関節を低くして指のアーチをキープするハイアーチ奏法も否定するものではありません。演奏者が自分の体の特性と目的とする音楽に応じて使い分けられるのが理想かと思います。
④指導者の方へお伝えしたい、指導する際の注意点
ここまでの内容で何を伝えたいかというと、指導者の方は生徒の成長を願い指導するわけですが、先生自身が教わって習得した奏法や、試行錯誤して辿り着いた理想のフォームが、先生が教える全ての生徒さんにとっての理想的フォームにはならない可能性があることをご承知おき頂きたいです。
右手は教えた通りに演奏できるのに、左手は教えた通りに演奏できなかったらどうでしょう。
利き手じゃない方の手は習得までに反復練習が必要だから、習得するまでひたすら反復練習させますか?
生徒さんの練習不足の可能性もありますが、伸展可動域の広い先生が教えたフォームだと、可動域が狭いがためにその生徒さんは左手は動かしづらい可能性はないでしょうか?
不器用だけど真面目に練習に取り組んでいる生徒さんが伸び悩んでいたら、生徒さんの悩みや本音を聴いて、改善できるよう取り組んでみてあげてください。
今回のテーマの薬指の可動域がすべてではありませんが、生徒さんが飛躍的に上達するきっかけになる可能性もありますし、指導者さんも新しい発見と今後の指導生活における引き出しが増えると思います♪